答案作成の節約法と法律解釈の仕方

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事例研究憲法 第4問 法の下の平等―国籍法3条改正後の国籍確認請求事件―

 

第1 設問1 (以下、条数のみは憲法

1 国籍法3条1項(以下、「本件規定」という。)は、日本国民である父から認知された子でありながら、「出生の時から引き続き3年以上日本に住所を有し」ないとして「差別」(14条1項後段)するものであり、「この憲法…の条規に反する法律」として「効力を有しない」(98条1項)。よって、Xは日本国籍を有する。以下、詳述する。

2 まず、上記のとおり、本件規定は、日本国民である父から認知された子のうち、出生の時から引き続き3年以上日本に住所を有している者と、そうでない者を区別するものである。(以下、「本件区別」という。)。

3 次に、不公平な法をいくら平等に適用しても無意味であるから、「法の下の平等」(14条1項前段)とは、法適用の平等に加え、法内容の平等まで要求していると解すべきである。また、事実上の差異を無視した形式的取扱いを行えば妥当な結論を導くことはできないから、「平等」とは、事柄の性質に応じた合理的区別を許容する相対的平等を意味するものであって、かかる区別が合理的である限りは「差別」にはならない。

4 ここで、日本国籍を有するか否かは、人が社会において占める継続的な地位であるから、「社会的身分」(同項後段)にあたるところ、同項後段列挙事由は、歴史的に差別されることが多く、民主国家では理由がないと思われるものであるから、これに基づく区別は、厳格に審査すべきである。具体的には、①区別の目的が必要不可欠であり、②区別が必要最小限度の手段であることが必要である。

5 本件では、本件規定の立法目的が、父との血縁上の繋がりのみならず、我が国との密接な結び付きを指標として国籍を付与するという点にあるが、このような考え方は血統主義を採用する我が国の島国根性そのものであり、また、「出生の時から引き続き3年以上日本に住所を有し」という要件(以下、「本件要件」という。)は、今日のように国際化が進み、価値観が多様化して家族の生活の態様も一様ではなく、それに応じて親子の関係も様々な変容を受けているのであり、本件要件のような外形判断することは必ずしも合理性のあるものではない。したがって、区別の目的が必要不可欠とはいえない。

  また、仮に区別の目的が必要不可欠であるとしても、国籍法2条1号は出生時に父母の一方が日本国民であれば国籍を取得できる旨を定めており、基本的態度として、国籍取得要件において、本件要件を重視しているものでないということができるのであって、我が国のように国籍取得において血統主義を採る場合、一定の年齢に達するまで、所定の手続の下に認知による伝来的な国籍取得を認めることによる実際上の不都合が大きいとは考えられない。したがって、区別が必要最小限度の手段であるともいえない。

6 よって、本件規定は、Xを「差別」するものであり、「この憲法…の条規に反する法律」として「効力を有しない」。以上より、Xは日本国籍を有する。

第2 設問2

1 Yの反論

(1)14条後段列挙事由は単なる例示であり、特別な法的意味はない。また、10条の規定は国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかについて、立法府の裁量判断に委ねる趣旨である。したがって、立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、なおそのような区別をすることの立法目的に合理的根拠が認められない場合、又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合に限り、当該区別が、合理的理由のない「差別」になる。

(2)本件規定の立法目的は、本件規定の立法目的が、父との血縁上の繋がりのみならず、我が国との密接な結び付きを指標として国籍を付与するという点にあり、また、倉吉政府参考人発言において、これまで住所要件(本件規定)は満たさなくても、父母が婚姻していた嫡出子については届け出により日本国籍を取得することができるということになり、その子に対してまで新たな要件を加重することは一般的な理解が得られないとし、今回の法改正では、単に準正の要件を削除するに留めたという理由がある。

 そして、本件規定が無い場合、海外で生まれ育った子どもが、日本人の親から認知された場合にまで、日本国籍を取得させることになり、そのような場合にまで国籍を付与するのは、それこそ合理的な理由の無いものになりかねない。

 したがって、本件規定には立法目的と合理的な関連性があり、Xを「差別」するものではない。

(3)仮に、本件規定がXを「差別」するものであっても、Xに日本国籍を付与するかどうかは、裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されない。

 以上より、Xは日本国籍を有しない。

2 私見

(1)ア、本件規定がXを「差別」するか否かについて、まず、14条後段列挙事由は単なる例示であり、特別な法的意味はないと解すべきである。なぜなら、「差別」が生じ得るのは、後段列挙事由に限られないからである。

イ、また、10条は、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と規定し、これを受けて、国籍法は、日本国籍得喪に関する要件を規定している。10条の規定は、国籍は国家の構成員としての資格であり、国籍の得喪に関する定めを規定するにあたっては、それぞれの国の歴史的事情、伝統、政治的、社会的及び経済的環境等、種々の要因を考慮すべきであって、これらをどのように定めるかは立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものである。

ウ、したがって、立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、なおそのような区別をすることの立法目的に合理的根拠が認められない場合、又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合に限り、当該区別が、合理的理由のない「差別」になると解するべきである。

エ、もっとも、日本国籍は、我が国の構成員としての資格であるとともに、我が国において基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方、出生時から引き続き3年以上日本に住所を有するかどうかは、子にとっては、自らの意思や努力によっては変えることのできないものである。したがって、このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じることにつき、合理的な理由があるか否かについては、慎重に検討することが必要である。

(2)本件規定の立法目的は、第2の1(2)で述べたとおりである。たしかに、海外で生まれ育った子どもが、日本人の親から認知された場合にまで、日本国籍を取得させることになり、そのような場合にまで国籍を付与する合理的理由はない。しかし、それが故に日本で出生し、父母の関係の縺れのような、子の自らの意思や努力によっても変えることのできない事情により、日本に3年以上住所を有さず、日本を離れることになった子どもを保護しないことになるのは不合理である。

 また、今日のように国際化が進み、価値観が多様化して家族の生活の態様も一様ではなく、それに応じて親子の関係も様々な変容を受けているという社会情勢を鑑みれば、本件規程のような要件は時代にそぐわず、明治時代以降先進国として歩んできた我が国のブランドを損なうものとなる。

(3)したがって、日本国籍取得の要件については、少なくとも本件規程はその立法目的自体が合理的理由のないものであり、合理的理由のない立法目的に基づき立法された本件規程は当然に不合理なものであるから、本件規定はXを「差別」するものである。

 以上より、本件規定は、Xを「差別」するものであり、「この憲法…の条規に反する法律」として「効力を有しない」。以上より、Xは日本国籍を有する。

 

以上

 

※東大ローの過去問でもありましたが、法制審議会の○○担当官の発言が資料として添付されてる形式の問題は面白いですよね。新司でも出ていいと思います。

※国籍法違憲判決は受験生がほぼ100%覚えるべき判例なので、判例の規範はある程度導けるようにしておいたほうがよきです。

※誤字と段落を修正しました(2019.8.12)。