答案作成の節約法と法律解釈の仕方

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憲法演習ノート 19.タヌキな裁判官

 

 

第1 問1(以下、憲法は法令名省略)

1 Xに対する監置決定(法秩法2条1項)により、Xの公平・迅速な公開裁判を受ける権利(37条1項)を制約し、違憲違法とならないか。

2 37条1項は、刑事被告人に対して、「公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利」を保障している。法は既に32条で万人に対し「裁判所において裁判を受ける権利」を保障しているが、37条1項が改めて「裁判を受ける権利」に言及したのは、刑事被告人に特有の諸問題について、刑事被告人の手続的権利を強化するという観点から、「公平」「迅速」「公開」の3つの特別な保障を与えたものである。そうすると、このような権利は、刑事被告人にとって非常に重要な権利である。

しかし、裁判所で裁判を受ける際には、公共の福祉による制約を受けることがある。具体的には、訴訟の進行に著しく遅延や妨害を及ぼすことがあり、訴訟を続行することが困難であるような場合には例外的に刑事被告人の権利を制約することもやむを得ない。

本問では、Xは「私は無罪です。検察官の起訴は、私たちの信教の自由を侵害しており、これこそは真の論点です。タヌキに憑依されて、私たちに偏見をもっているあなたたち裁判員に、私を裁くことは不正であり、許しません。裁判官による裁判を求めます」と被告人による供述を求められていないにもかかわらず、大声で主張し、審理の進行を妨げている。して、裁判官の制止にもかかわらず、Xは自らの主張を繰り返したため、Xを拘束しなければ、訴訟を続行することが困難であるといえ、監置決定は37条1項に反し、違憲とはいえない。

2 そして、適用違憲ともみられるような事情もない。

3 したがって、本件監置決定は合憲である。

第2 問2

1 Eによる秘密面会の拒否が、Xの弁護人依頼権(34条、37条3項)を侵害し、違憲とならないか。

2 憲法は34条と37条3項において、弁護人依頼権を規定している。両規定により、被疑者に対して身体が拘束される場合に、必ず、被告人に対してはいかなる場合でも弁護人に依頼する権利が保障される。「資格を有する」弁護人(37条3項)とは法律の専門家である弁護士のことを指す。

刑事手続において、被疑者・被告人は常に捜査機関・訴追機関と対峙しなければならないが、通常前者は法律の素人であることを思うと、弁護士の援助があって初めて後者との実質的な対等性が確保され、公平で適正な刑事手続が実現すると考えなければならない。

しかし、いかなる場面において面会を認めなければならないとなると、捜査機関の捜査に著しい遅延を生じるおそれがあり、特に秘密面会については、その施設が整っていない場合や、被告人の精神状態を加味して、職員を立ち合わせることで面会を認める必要がある場合があるといえる

3 そして、死刑確定者にはその精神状況が安定しているとは言い切れないから、職員の立会いのもと面会を認めることが定められている(刑事収容施設法121条)

4 したがって、同条により、職員の立会いの下面会を認めることは、Xの弁護人依頼権を侵害するものでなく、合憲である。

第3 問3

1 裁判員の関与する裁判体による裁判でXが有罪とされたことについて、Xの「公平な…裁判を受ける権利」(37条1項)を制約するものでないか。

2 下級裁判所の裁判官は最高裁判所の指名した名簿によって、内閣に任命された者で構成される(80条1項)このように憲法上は、刑事裁判の担い手は、基本的に裁判官とされているものの、憲法は国民の司法参加を許容しており、これを採用する場合には、適正な刑事裁判を実現するために諸原則が確保されている限り、その内容の立法政策に委ねている。

裁判員制度の仕組みを考慮すれば、公平な「裁判所」における法と証拠に基づく適正な裁判が行われること(31条32条、37条1項)は制度的に保障されており、憲法が定める刑事裁判の諸原則を確保する上での支障はなく、80条1項にも違反しない。

3 したがって、裁判員の関与する裁判体による裁判でXが有罪とされたことについて、Xの「公平な…裁判を受ける権利」(37条1項)を制約するものでなく、合憲である。

 

以上(1726字)