答案作成の節約法と法律解釈の仕方

現在は憲法の答案例を主にあげているブログです。

憲法演習ノート 3.オトコもつらいよ

 

第1 問1

1 ①について

 嘱託職員としての期間について、Dに支払われている賃金との差額分の支払いについては、一般職員と嘱託職員を不当に差別しているとして憲法(以下、法令名省略)14条1項に反すると主張する。

2 ②について

 採用面接におけるDの質問が、Xの思想に関するものであり、これによって精神的損害を被ったことは、思想・良心の自由(19条)に反すると主張する。

3 ③について

 一般職員としての労働契約関係の存在の確認については、男女間の性差に基づき不当な差別を行っているとし、14条1項に反すると主張する。

第2 問2

1 Yの反論について

(1)①の主張について、Yとしては本件は私人間における紛争であり、対国家的権利の保護を求める憲法の適用は許されないと反論する。以下、私人間効力に関しては②、③の主張に対して共通する反論である。

 また、仮に私人間の紛争についても憲法が適用されるとしても、一般職員と嘱託職員では、業務内容が異なり、本件XとDでもXが相談業務で週30時間程度の労働であるのに対し、Dは管理業務で週40時間も勤務しているのであるから、合理的な区別であり、「差別」(14条1項)には当たらないと反論する。

(2)②の主張について、会社が誰を採用するかの判断は会社側に裁量があり、会社が誰を採用するかの判断基準を設け、質問の回答を拒否した者を採用しなかったとしても、思想・良心の自由を制約するようなものではないと反論する。

(3)③の主張について、Yとしては従来の人事方針やXの面接での態度をもとに、XではなくBを採用したにすぎないのであって、Xが男性であるから採用しなかったわけではなく、合理的な区別であり、「差別」(14条1項)に当たらないとはんっ論することがあ考えられる。

2 私見

 まず、前提として憲法の私人間効力は間接的に適用べきである。なぜなら、憲法の人権保障の趣旨を全うするためには私人間にも適用すべきであるが、私的自治を損なわない程度にすべきであるから、私人間では私法の一般条項(民法90条等)を媒介として、間接的に適用すべきであるからである。

  1. ①の主張について、Xは、Dとの賃金格差が「差別」に当たるとしているが、いかなる場合に「差別」といえるか。

  14条1項後段列挙事由は単なる例示であって、特別な法的意味はないと解すべきである。「差別」が生じるのは14条1項後段列挙事由に挙げられる理由に限られないからである。

 また、パートタイム労働法10条において、「短時間労働者の職務の内容…等を勘案し、その賃金を決定するように努めるもの」としている。この規定はあくまで、一般労働者と短時間労働者の賃金格差が生じにくいようにすべきという努力規定であり、賃金の設定に関しては会社側に一定の裁量がある。

 したがって、会社に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、なおそのような区別をすることの目的に合理的な根拠が認められない場合、当該賃金格差は、合理的理由のない「差別」に当たると解する。

 本件では、XはYの主要な業務の1つである相談業務に従事している。これに対して、Dは管理業務に従事している。そして、XとDでは週に勤務する時間が10時間も異なり、これは「職務の内容」が異なり、これをもとに「賃金を決定」することは、パートタイム労働法10条によって認められているし、同法がこのような区別を設けているのに際して、区別の基準などを見ても、特段不合理であるとはいえず、同法10条に従った算定された賃金の格差に関しては、合理的理由のない「差別」であるということはできない。

(2)②の主張について、採用面接におけるDの質問がXの思想・良心の自由を制約したか。

 そもそも「思想及び良心」(19条)とは、信仰に準ずる世界観・主義・思想をいうところ、Xが学生時代に、男女共同参画には賛成であるがジェンダーフリーは行き過ぎであると主張する団体に属していたことは、紛れも無いXの信仰に準ずる世界観・主義・思想にかかるもので「思想及び良心」に当たる。

 しかし、会社側が誰を採用するかは、会社の主義・理念・人事方針などに加えて、直接その人がどういう人物であるかを窺い知ることができる面接における態度を考慮事情としても、会社の裁量になんら逸脱・濫用があるものとはいえない。

 したがって、具体的に本件採用面接におけるDの質問がXに精神的損害を与えたかは、会社の主義・理念・人事方針、募集枠の数、質問内容がどの程度具体的か、Xの質疑応答の態度等諸般の事情を考慮して決すべきである。

 Yは、A市が女性の自立と広汎な社会参加を支援する事業を幅広く展開し、男女共同参画を実現することを目的とした公益財団法人である。そうすると、Yの主義・理念は男女共同参画を実現することにある。また人事方針も過度に女性のみを採用・雇用するようなものではない。そして募集枠は一般職員1名を採用するというもので、非常に狭き門である。

 たしかに、Dの質問はXの思想・良心に関するようなものであったかもしれないが、それは会社側としては、採用するに当たって特に知りたい事実であり、今後相談業務に従事するにあたり、ジェンダーフリーは行き過ぎだと主張する団体に所属していたXが相談対応にあたると、会社の理念に少なからず反することになり兼ねない。またそのような者が相談対応にあたっては、相談者も相談をしに来ないであろう。そして、このような質問がなされた際に、Xは回答を拒否したのみで、拒否した理由などを面接官であるDに述べるようなこともしていない。

 以上のような事情を鑑みるに、本件採用面接におけるDの質問がXに精神的損害を与えたとはいえない。

(3)③の主張について、男女の性別をもとに判断された「差別」にあたるか。男女雇用機会均等法8条は「前三条の規定は…女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。」としている。

 そうすると、「労働者の職種及び雇用形態の変更」(男女雇用機会均等法6条3号)の規定は、Yが一般職員の女性割合が3割程度にとどまっているという、「男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的」に行われたものであり、なんら合理的理由を欠く区別ではなく、「差別」にあたらない。

3 以上より、Xの主張はすべて主張自体失当である。

                                                                   以上

 

※答案だけ読み返してみると、今とは全く異なる憲法答案の書き方をしていてビックリしますね笑