答案作成の節約法と法律解釈の仕方

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憲法演習ノート 6.二十二の春の悲劇

 

第1 問1(以下、憲法は法令名省略)

1 Xとしては、Y県立大学法科大学院の地域枠コースは自らの小論文の点数よりも低い点数を取った者を、入学させるだけでなく、奨学金まで与えるというあまりにも不合理な差別を行なっているとして、地域枠コースはXの平等権(14条)を侵害するものとして違憲であると主張する。

2 まず、Y県立大学法科大学院は、一般コースと地域枠コース出願する資格をY県で生まれ育ったか否かで判断している。これはY県で生まれ育ったものを県外で生まれ育った者とを区別するものである。

 次に、公平な法をいくら平等に適用しても無意味であるから、「法の下の平等(14条1項前段)とは、法適用の平等に加えて、法内容の平等まで要求していると解すべきである。 

 そしてこの理は制度の適用についても妥当する。また、「平等」とは、事柄の性質に応じた合理的区別を許容する相対的平等を意味するのであって、かかる区別が合理的である限り「差別」とはならない。

3 Y県立大学法科大学院一般コースと地域枠コースとでは、その生まれ育った土地という、

 いわば「門地」について区別を行なっていると考えることができる。14条1項後段列挙事由は、歴史的に差別されることが多く、民主国家では理由がないと思われることものであるから、これに基づく区別は厳格に審査すべきである。具体的には、①区別する目的が必要不可欠で、②区別が必要最小限度の手段であることが必要である。

 Y県立大学法科大学院の地域枠コースの目的については、募集要項で、「学生の多様性を確保し、Y県における近年の弁護士の偏在・過疎問題を解消するため、…生募集を行ってい」るとしている。これは、他県出身者よりもY県出身者を優遇し、他県出身者がY県で将来弁護士として従事することを妨げる結果になりかねないものである。したがって、区別の目的は必要不可欠であるとはいえない。

 それに加えて、出願資格でゼロワン地域に従事する明確な意思を持つことや、Y県に縁のある者であること、合格後必ず入学することが確約できる者であることなどの要件をけている。このような要件を設けることはY県における近年の弁護士の偏在・過疎問題を解消する手段としては、かえって募集者を減らす結果になりかねず、必要最小限度のものとはいえない。さらに、Y県出身者であれば、仮に成績が優秀でなくても、Y県立大学法科大学院に合格してしまう可能性があり、仮に弁護士になれたとしても、Y県内で働く弁護士の質を低下しかねない。それによって、困っている人を助けることが困難になる状況もあり得る。したがって、区別が必要最小限度の手段であるともいえない。

 以上より、Y県立大学法科大学院の地域枠コースは、Xを「差別」するものであり、違憲である。

第2 問2

1 想定されるY県立大学の反論としては、一般コースと地域枠コースで出願資格を別にすることは、合理的区別であり、「差別」には当たらないと反論することが考えられる。また、中央大学法科大学院のように、全国有数の法科大学院では地域枠に加え、女性枠などの数多くの般枠とは別枠のコースを設けていることからも合憲の推定が働く。

2 以上から以下で私見を詳述する。

 Y県立大学法科大学院が学生を募集するにあたって、一般コースや地域枠コースを設けることが、学生がY県立法科大学院に入学する機会の平等を侵害するものか。 

(1)まず、地域枠コースがXの入学機会を不当に奪いこれが「差別」に当たるかについては、「差別」についてどのように考えるかが問題となる。 

原告は14条後段の列挙事由が歴史的に差別されてきたものであり、「差別」に当たるかを厳格な基準を持って判断している。

 しかし、14条後段列挙事由は単なる例示であり、特別な法的意味はないと解すべきである。「差別」が生じるのは14条後段列挙事由に掲げる場合に限られないからである。

 法科大学院の募集要項は、大学の伝統や大学の理念を含めた社会的状況における種々の要因を踏まえつつ、それぞれの大学で地域に根ざした政策を行なうか、司法試験合格率を上げるために優秀な者のみを入学させるなど、法科大学院制度自体も踏まえた総合的な判断を行なうことによって定められるべきである。

 そうすると、各法科大学院によって、どのような政策を行うべきかは、各々の法科大学院の裁量によって決すべきである。

(2)したがって、本件において、地域枠コースが違憲であるかは、学生募集において一般コースと地域枠コースを区別した目的に合理的根拠がありかつ、その区別の目的を達成するための手段との間に合理的関連性があるか否かによって決すべきである。 

(3)同大学が、このようなコースを区別して設置した目的は、募集要項にある通り「学生の多様性を確保し、Y県における近年の弁護士の偏在・過疎問題を解消するため」である 

 このような目的は、Y県が抱える弁護士不足を解消するために、Y県にある国立大学として重大なものであり、これからの少子化の時代において、人不足による問題は深刻化するもので、一刻も早く解消せねばならない必要がある。

 そうすると、区別を行う目的については合理的根拠があるといえる。

 そして、区別の目的を達成するための手段としては、地域枠コースの定員を、そもそもの全体の定員30名に対する5名と、全体の1/6の人数に限って募集を行っている。また、小論文に関しては一般コースと同じ試験を受けることとなっており、適性試験受験についても下位15%に当たる者は出願資格を得られず、その選抜には厳格な要件を設けているということができ、目的を達成するための手段として合理的関連性は認められる。 

(4)以上から、学生募集において一般コースと地域枠コースを区別した目的に合理的根拠があり、かつその区別の目的達成するための手段との間に合理的関連性が認められ、地域枠コースは合憲である。

 

以上