答案作成の節約法と法律解釈の仕方

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憲法演習ノート 4.かわいいは正義

 

 

第1 問1 (以下、条数のみは憲法

1 まず、Xとしては、本件条例が「法律の範囲内」(94条)ではないとして、本件条例が違憲であり、違憲である本件条例によってなされた本件処分は違法であり、取り消されるべきだと主張する。

 条例が「法律の範囲内」であるかは、法律と条例の文言を単に比較するだけでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるか否かによって決すべきであるところ、本件条例は比較対象となる入れ墨を入れる行為を規制する現行法は存在しないので、「法律の範囲内」ではない。

 したがって、本件条例は94条に反するとして違憲であり、本件処分は違法であり、取り消されるべきである。

2 仮に、本件条例が「法律の範囲内」であっても、Xがファッションとして自らの身体にタトゥーを入れることは、表現の自由(21条1項)により保障されるべきもので、これに制約を加えるものであるとして、本件条例7条1項4号アは違憲であると主張する。

 Xがタトゥーを入れる自由は、Xの芸術的センスを自らの身体に表現することにより、自己実現の価値および自己統治の価値に資するものであるといえる。したがって、Xのタトゥーを入れる自由は、表現の自由によって保障される。

 したがって、本件条例7条1項4号アはXのタトゥーを入れる自由を制約し、違憲である。

3 次に、Xがタトゥーを入れる自由は表現の自由のみならず、人格的生存に不可欠なものであるとして、幸福追求権(13条後段)によって保障され、これを制約する本件条例7条1項4号アは違憲である。

4 仮に、以上の主張が認められず、本件条例が合憲だとしても、Xのタトゥーは、どれも小さくかわいいものであるから、「他の者に不安を覚えさせ、…、当該他の者の海岸の利用を妨げること」(条例7条1項柱書き)に当たらないとして、本件処分の処分違憲を主張する。

第2 問2

1 想定される被告Yの反論

 以上のXの主張に対して、Yの反論を以下で述べる。

 (1)「法律の範囲内」について、本件条例が法律の範囲内であるかは、一般的には原告が主張するような基準で決すべきであるが、本件条例は全国に先立って制定された条例であり、元になる法律が存在しない。しかし、法律による根拠のない条例はただちに違憲となるとは考えられない。なぜなら、憲法地方公共団体は「地方自治の本旨」に基づいて地方公共団体の運営を行うことができる。そうすると、各地方公共団体に各々の地方の特徴から、必要となる条例に差異が生じてくるのは必然である。そうすると、各地方の地域の発展や住民自治などの観点から、その土地に適合した条例を制定することは、憲法によって許されていると解することができる。そして、このような場合に、条例がただちに94条に反し違憲であるということはできない。

 (2)Xのタトゥーを入れる自由が表現の自由によって保障されるという主張に対して、表現の自由で保障されるといっても、絶対無制約のものではなく、「公共の福祉」(12条、13条後段)によって一定の制約は受けるべきであり、表現の自由に対する制約であっても違憲ではないと反論する。

 (3)Xのタトゥーを入れる自由は人格的生存に必要不可欠なものではないとして、Xの主張は主張自体失当であると反論することが考えられる。

(4)Xのタトゥーは、どれも小さくかわいいものであるから、「他の者に不安を覚えさせ、…、当該他の者の海岸の利用を妨げること」(条例7条1項柱書き)に当たらないとの主張に関して、B海岸の常連利用客である、Xを含めた10名もの者がタトゥーを入れ海岸を散策していれば、その一つ一つのタトゥーが小さく、かわいいものであっても、通常一般人においては、直ちにXらが暴力団員であるというような思考に及ぶものではないとはいえ、少なからず無用な「不安を覚えさせ、…畏怖させ、…困惑させ」る結果になることは容易に予想ができ、処分違憲の主張は失当であると反論する。

2 以上の反論を踏まえて、以下、私見を詳述する。

(1)まず、本件法律が「法律の範囲内」であるかは、その基準に関しては、地方公共団体には「地方自治の本旨」により、各々の地域の性質や住民自治の観点から、法律がない場合でも各地方公共団体で規制をする必要性がある場合は、必要最小限度の規制をすることもできると解すべきである。

 そうすると、本件条例が制定された背景には、B海岸がA県Y市における重要な観光地であり、国内有数のビーチであること。近年、B海岸および周辺で違法薬物事件が相次いでおり、「タトゥーを入れた人がビーチに多くて怖い」との市民の声などから、治安維持やB海岸を利用する地元民の利益のためになされたもので、その制定趣旨や、内容等を鑑みるに、B海岸の性質や住民自治の観点から、法律がない場合でも条例を制定する必要性があり、必要最小限度の規制にとどまっているといえるから、「法律の範囲内」にあたるといえる。

 したがって、Xの主張は認められない。

 (2)「表現」とは、自己の思想や意見を外部に表明する行為をいうところ、Xのタトゥーを入れる自由は、Xの芸術的センスという思想を、自らの身体に掘り、外部に表明しているといえ、Xの本件自由は表現の自由によって保障されうる。

しかし、被告の反論の通り、表現の自由は絶対無制約のものではなく、「公共の福祉」によって制約を受ける。

 また、Xのタトゥーを入れる自由は、政治的意見表明の自由などの表現の自由の中核を占める重要な権利と比べて、表現の自由の外縁部、すなわち、あまり表現の自由として保障する重要度は高いとは言えない自由である。

 そうすると、本件条例が21条1項に反し違憲であるかという審査基準については、表現の自由によって保障されるXの自由と、これを制約することによって得られる公共の利益とを比較衡量して決すべきである。

具体的には、規制目的が合理的で、規制手段と目的との間に実質的関連性があるか否かによって決する。

 本件条例の規制目的は、既述のように、B海岸の治安維持および地元民の利益である。そしてこのような規制目的を達成するための手段として、入れ墨等を入れた者に対し、まずはタオルやTシャツ等で入れ墨を隠すよう中止命令として、指導・注意等をした上で、これに従わない者に、2万円以下の過料に処するとしているが、これは第1段階に中止命令、第2段階として軽度の罰則を与えるものである。そして、罰則としても、刑を科するわけでなく、最大で2万円の過料という比較的穏当な手段で規制目的を達成しようとしている。これは入れ墨を入れている者たちに萎縮効果を与える目的でもなく、規制目的を達成するために実質的に関連性がある規制手段であるということができる。

 したがって、本件条例7条1項4号アは合憲である。よって、Xの主張は認められない。

(3)Xのタトゥーを入れる自由が幸福追求権によって保障されるか。

 13条後段は、単に「幸福追求に対する国民の権利」とのみ規定しており、その内容が具体的には定められてない。

 また、現代社会において、高度に技術が発展した日本社会では、AIやVR、ネット上等

様々な場面において新しい権利、新しい人権問題が生まれてきつつある。

 そこで、このような新しい人権を13条後段ですべて保障するとなれば、人権のインフレ化を引き起こし、憲法で明文で定められていた基本的人権の保障価値が相対的に希薄化することになり兼ねない。

 したがって、新しい人権として、13条後段によって保障されるか否かは、当該自由が個人の人格的生存に不可欠であり、それが個人の私生活上みだりに制約されないものであるということができれば、13条後段によって保障されると解する。

 Xのタトゥーを入れる自由は、タトゥーを入れなくても個人が私生活を営む上でなんら支障はないし、これが国民大多数において人格的生存に不可欠なものであるということはできない。ましてや、プライバシー権などの人格的生存に密接的にかかわるようなものでもない。

 したがって、Xのタトゥーを入れる自由は幸福追求権の一内容として13条後段によって保障されない。

 (4)Xの処分違憲の主張に関しては、Yの反論を全面的に支持する。

 したがって、Xの主張は失当であり、Yの本件処分は合憲である。

3 結論

 以上より、私見としてはXのすべての主張は主張自体失当であり、本件条例は合憲であり、これを適用し、なされた本件処分も合憲である。

 

以上