第1 問1
1、 Xは健全化法143条2項及び1項により、街頭行進する自由が制
約されている。したがって、同法143条2項及び1項が
違憲であ
れば、これに基づく本件不許可処分も
違憲違法となる。
2、 Xの本件自由は、街頭行進する際に貧困に苦しむ日本人に対して、
豊かな生活を送る在日
アメリカ人の特権的境遇を糾弾するという目
的を持っている。
(1)これは、
憲法(以下、法令名省略)21条1項の
表現の自由により保障され、歩道行進では、上記目的を果たすのは難しく、車
道を利用してこそ意味があると考えているから、本件不許可処分に
より、自己の見解を表明する機会自体が奪われることとなるとして
、消極的
表現の自由という
表現の自由の核となる部分が制約されて
いるから、重大な制約といえる。
(2)また、本件不許可処分により、車道を利用しての街頭行進を
する自由が制約され、Xら在滅会の活動を著しく困難にさせるもの
であり、結社の自由(21条1項)の制約である。
結社の自由は、結社をする、しないということに関して公権力に
妨げられない自由のみならず、団体が団体としての意思形成を行い
、その意思実現のための諸活動を公権力によって妨げられない自由
をも含んでいる。そして、本件制約はこれを制約し、団体としての
意思を街頭において表明する機会自体を損なわせており、
重大な制約であるといえる。
3、 以上から、健全化法143条2項及び1項は消極的
表現の自由及び
結社の自由により保障されるXの本件自由に、
重大な制約を加えているから、これが合憲であるといえるには、制
約の目的が真にやむにやまれぬ政府利益のため、その手段が必要最
小限度であるといえなければならない。
健全化法は、国・
地方財政の再建を立法目的とする包括的な法で
あり、抜本的な国・
地方財政の再建のためという政府利益のため、
やむにやまれぬ目的のため制定したといえなくもない。しかし、車
道を利用した街頭行進が最大20万円の費用負担を必要とするのに
対して、車道以外の歩道を利用した街頭行進は申請手数料(全国平
均2000円)のみの徴収で済む。このように金額に大きな差を設
けることは必要最小限度の手段とはいえないし、立法過程で
貧困層に対する費用徴収免除措置自体は導入が見送られたが、その費用を
減額する等のより制限的でない手段を取ることは可能であったとい
える。
したがって、健全化法143条2項及び1項は真にやむにやまれ
ぬ政府利益のため、必要最小限度の手段であるとはいえず、
違憲である。
4、仮に健全化法143条2項及び1項が合憲であるとしても、X
の本件自由は
表現の自由の核たる部分であり、
貧困層であるが故に
、重い制約となっている。くわえて、在滅会の街頭行進予定ルート
は、
アメリカン・パレードと完全に同じものであるのに、前者の費
用が約12万円で、後者の費用が約4万円であるのは、平等原則に
反するし
違憲との主張をする。
第2 問2
1、A県の反論について
(1)まず、Xの本件自由は
表現の自由であるとしても、その内容
は、「
アメリカの豚は自分の国に帰れ」や「汚れたちの流れる不逞
アメリカ人に
神罰を」などの過激で憎悪表現であるといえる。
そうすると、このような表現は消極的
表現の自由として
表現の自由の核たる部分として重要な保障を受けるものではなく、本件制約は
表現すること自体を規制したものでもなく、また表現内容に着目し
た内容規制ではなく、内容中立規制である。
そうすると、健全化法143条2項及び1項が
違憲であるかどう
かは、重要な公共的利益に役立つものであること及び、情報の伝達
のために他の選びうる手段が開かれていることを基準に判断する。
本件では、街頭行進に伴う警察活動費用の一部を街頭行進主催者に
負担させ、警察の負担軽減に、ひいては、国及び
地方公共団体の財
政の再建に資するという重要な公共的利益に役立つものである。
そして、街頭行進にあたって、車道を選択するか歩道を選択するか
は主催者の意思によるもので、必ずしも車道で街頭行進する必要は
ない。そして、車道よりも歩道で街頭行進する方が遥かに費用がか
からずに済む。このように、
情報伝達のために他に選びうる手段は開かれている。
したがって、健全化法143条は合憲である。
(2)また、原告の
適用違憲についての主張については、健全化法
144条で警察費用に関しての諸規定が定められており、警察費用
の上限を設け主催者に大きな負担が掛からないように配慮されてい
る。そして、警察費用の算定に関しては、詳細な方法が定められて
おり、これによって算定された、
アメリカン・パレードと在滅会の
街頭行進の費用に差が出たことも、所轄警察署長の裁量に基づき、
所定の算定方法に従って算出されたものであるから、合理的区別で
ある。したがって、平等原則に違反しない。
2、
私見(1)法令
違憲について
ア、まず、原告Xの本件自由は消極的
表現の自由と結社の自由に基
づくもので、両者は
憲法21条1項に規定されている。
なぜなら、そもそも、
表現の自由は自己の思想・
感情に基づいて、外部的行為を行うことにより、
自己実現の価値及
び自己統治の価値を達成するものである。そして、内心における思
想は外部に表明されて初めて社会的効用を発揮する。
そうすると、警察活動費用を負担しないことによって、Xの自由
を制約することは、このような
表現の自由に対する重大な制約であ
る。
イ、しかし、これに対して、A県側は、街頭行進が予定されるC町
米軍住宅地内には、在滅会の活動に対して敵対的な聴衆が多く居住
しているため、安全確保のために必要とされる費用が多額になるの
はやむをえないこととしている。
ウ、そうすると、本件においての
違憲審査基準は、Xの自由が表現
の自由として保護される重要性と、A県側の公共の福祉に資する制
約であることを鑑み、あらゆる事情を総合考慮し、比較衡量をして
導出し決すべきである。
具体的には、健全化法143条2項及び1項が
違憲であるかどう
かは、重要な公共的利益に役立つものであること及び、情報の伝達
のために他の選びうる手段が開かれていることを基準に判断する。
本件では、健全化法の目的は国・
地方財政の再建という国家の存
続にかかる非常に大きく重要な公共的利益に資するもので、警察活
動費用を街頭行進主催者にも負担させることである。したがって、
重要な公共的利益に役立つものであるということができる。
しかし、健全化法は「車道」利用の街頭行進についての警察費用
算定手段を定めるのみで、「歩道」利用に関しては道路使用許可申
請手数料のみが徴収されるだけで、
貧困層が「車道」を使って街頭
行進するために代替的伝達経路が開かれているものということはで
きない。
また、いわゆる敵意ある聴衆の法理によって、
表現の自由を端的
に制約することはできないから、警察の本題文中の説明も妥当では
ない。
エ、したがって、健全化法は
違憲である。
(2)
適用違憲について
健全化法が
違憲である以上は、これに基づいてなされた本件不許可
処分は
違憲・違法である。