答案作成の節約法と法律解釈の仕方

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事例研究憲法 第5問 政教分離―市有地贈与事件―


第1 設問1(以下、憲法は条数のみ)
1 Xの代理人としては、本件贈与は「公の財産」を「宗教上の組織若しくは団体」の「利用に供」するもの(89条)であり、本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続を請求しないことが、地方自治法(以下、「地自法」という。)242条の2第1項3号に基づき違法確認の訴訟を提起しているが、「怠る事実」とは、「違法…に…財産の管理を怠る」(地自法242条1項)をいい、本件贈与が「怠る事実」にあたることを以下、詳述する。
2 まず、「宗教上の組織若しくは団体」とは、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないしは団体を指すところ、S町内会は、法的に本件神社物件を所有しており、S神社は、A市が所有する本件土地上に存在し、本件土地の上には、北側から鳥居、石灯籠一対および社殿が一直線上に配置され、社殿の手前には手水所が設置されており、このような外観を備えている物件を所有し本件氏子集団が管理運営できるような場所として提供していることから、「宗教上の組織若しくは団体」にあたる。
3 次に、89条は、いわゆる政教分離原則の現れであるところ、確か政教分離規定は制度的保障であるが、制度的保障は制度の周辺部分の侵害を許すものであるから、運用のいかんによっては、信教の自由の保障が図れないおそれがある。

 したがって、かかる保障の目的の達成のため、政教分離の程度は厳格なものが要求されると解する。
 具体的には、①問題となった国家行為が世俗的か宗教的か、②その行為の主要な効果が宗教を振興し、又は抑圧するか、③宗教と国家との過度のかかわり合いを促すものかどうかという3要件をもって判断するのが妥当である。また、政教分離原則は本来的には厳格な宗教的中立性を要求するものであるから、かかる要件のいずれか1つでもクリアできない場合には、違憲であると判断するのが相当である。
4 本件では、本件神社の敷地上にある建物の一角には神社の祠が設置され、建物の外壁には「神社」との表示が設けられていた。また、当該土地上には、神社の象徴的存在といえる鳥居および社殿が設置されていた。さらに、本件神社は神社付近の住民らで構成される氏子集団によって管理運営されており、年二回の祭事が行われている。そして、S神社は「お啓きの神」と呼ばれ多くの参拝者が訪れている。このような事情から、宗教的色彩を失って世俗化ないし習俗化しきっているとはいえず、宗教的行為であるといえる。
 したがって、本件贈与は、少なくとも①を満たさない。
5 以上より、本件贈与は、「公の財産」を「宗教上の組織若しくは団体」の「利用に供」するものであり、本件土地の所有権移転登記の抹消手続をしないことが、「違法…に…財産の管理を怠る」ものである。
第2 設問2
1 被告の反論
(1)89条に違反するか否かは、当該行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進、又は圧迫、干渉等になるか否かにより決すべきである。
(2)本件贈与行為の目的は、1948年に中学校用地確保のために本件土地を寄付したいというPの意思に報いるという世俗的、公共的な目的から始まったものであり、本件贈与行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるとはいえない。
(3)以上より、本件贈与行為は、「公の財産」を「宗教上の組織又は団体」の「利用に供」するものではなく、本件土地の所有権移転登記の抹消手続をしないことは「違法…に…財産の管理を怠る」ものではないと反論する。
2 私見
(1)まず、89条に違反するか否かを判断しなければならない。
ア、89条の趣旨は、国が宗教的に中立であることを要求するいわゆる政教分離原則を、公の財産の利用提供等の財政的な側面において徹底させるところにあるところ、これによって、20条1項後段の規定する宗教的団体に対する特権の付与の禁止を財政的側面からも確保し、信教の自由の保障を一層確実なものにしようとしたものである。

 しかし、国家と宗教との関わり合いには種々の形態があり、およそ国と公共団体が宗教との一切の関わり合いをもつことが許されないというものではなく、89条も公の財産の利用提供等における宗教との関わり合いが、我が国の社会的、文化的諸条件に照らして、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当と認められる限度を超えるとものと認められる場合には、これが許されないとするものである。
 国又は地方公共団体が国有地を無償で宗教的施設の敷地として提供する行為は、一般的には、当該宗教的施設を設置する宗教的団体等に対する便宜の供与として、89条との抵触が問題となる行為である。
イ、もっとも、国有地が無償で宗教的施設として利用するために提供されているといっても、その当該施設の性格、来歴、無償提供に至る経緯、利用の態様等には様々なものがあり得る。
ウ、そこで、国有地が無償で宗教的施設の敷地として利用に供されている状態が、前記の事情を踏まえて、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされている限度を超えて89条に違反するか否かは、当該宗教施設の性格、当該土地が無償で当該施設の敷地として供されるに至った経緯、来歴、当該無償提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮して、社会通念に照らして考慮すべきである。
エ、なお、被告の反論においていわゆる目的効果基準が用いられているが、この基準は、問題となる行為の「世俗性」と「宗教性」が同居しており、その優劣が微妙であるときに、そのどちらを重視すべきかの決定に際して用いられる基準であって、明確に宗教性のみを持った行為につきさらに、これが如何なる目的をもって行われたかが問われる場面においては妥当しない。本件神社物件は、これといった文化財や史跡等としての世俗的意義を有するものではなく、一義的に宗教施設であって、そこで行われる行事もまた宗教的な行事であることは明らかである。よって、被告の主張する目的効果基準は本件には妥当しない。
2 以上に従い、本件を検討する。
(1)たしかに当該施設は、もともとはPが自分には相続人もいないので所有地を社会の役に立てたいと考え、1948年当時、S中学校を開校するための用地を探していたA市に寄付するという極めて世俗的目的によるものである。しかし、その後、市有地上にS神社があるという状況を早くなんとかした方がよいという声があったにもかかわらず、2010年に空知太神社訴訟判決が出たのをきっかけに、このままでは本件土地の上にS神社がある状態が違憲であると判断されると考えた市長Qによって、違憲判決を免れるために行われたものであるから、Qには市有地上に本件神社があることは少なくとも合憲であるとの認識はないといえる。そうすると、本件贈与行為は、世俗的な背景のもとに行われたとはいえない。
(2)また、本件施設は、S町内会によって所有されているが、その内情は、管理運営を本件氏子集団が行なっており、彼らの総代および世話役に「あなたの宗教は何か」問うたところ、全員が「仏教」と答えており神道を信仰していると回答したものはいなかったとあるが、仮に神道の象徴たる神社を運営しているのが仏教徒あったとしても、仏教の教えを必ずしも、寺院で行わなければならないというわけではないと思われるし、此れ幸いに、本件施設を利用して布教活動することは考えられる。そうすると、本件施設は宗教的施設といえる。
 くわえて、一般人としても、「S神社」と掲げられた額があり、神社を象徴する鳥居があれば、少なくとも宗教的施設であることは認識できるから、一般人の評価としても宗教的施設であると考えられる。
3 以上より、当該宗教施設の性格、当該土地が無償で当該施設の敷地として供されるに至った経緯、来歴、当該無償提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮して、社会通念に照らして本件施設は宗教的施設である。
4 したがって、本件贈与は、「公の財産」を「宗教上の組織若しくは団体」の「利用に供」するものであり、本件土地の所有権移転登記の抹消手続をしないことが、「違法…に…財産の管理を怠る」もので89条に違反する。

以上

 

※空知太判決の規範くらいは書けるようにしたほうがよきです。「政教分離!→目的効果基準!」という安易な発想はローヤーとしての資質に欠けると、どこかの憲法教授に言われそうです笑

※まあ考慮する事情はどの基準でも、大きく変わるものではないので目的効果基準一本で行くんだ!という強い気持ちを持っている人はそれでもよきかもです。

※そろそろタイトル詐欺なブログのタイトルを変えようかななんて思ってます。

 

カフカ