答案作成の節約法と法律解釈の仕方

現在は憲法の答案例を主にあげているブログです。

憲法演習ノート 15.リスク管理のリスク

 

 

第1 問1(憲法は以下法令名省略)

1 B村の住民は、本法4条が災害時に当該地域における居住を禁止することは「財産権」(29条1項)を侵害し、また、本法は財産権の内容を「公共の福祉に適合するやう」(同条2項)定められておらず、29条2項に反するものであるとして違憲であり本件居住禁止処分は違憲違法であると主張する。

 29条は私有財産制度のみを保障するだけでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障するものであるところ、財産は個人の生活に不可欠であり、個人の自由で独立の人格の存在を可能にする経済的基礎である。 

 B村の住民にとって、B村での生活は社会的経済的活動の基礎をなすものであり、「財産権」として保障される。

 これに対して、本件居住禁止処分は、このようなB村の住民の財産権を制約するものであり、また、B村の住民が私有財産を「公共のために用ひ」ているにもかかわらず、正当な補償を行なっていないことは、B村の住民の財産権を制約する程度が極めて重大である。

 そこで、このような本法が合憲であるかの審査基準は厳格なものを用いるべきである。具体的には、本法の目的が真にやむにやまれぬ政府利益のため、手段が目的達成のために必要最小限度のものであるか否かによって決する。

2 本法の目的は北西日本大震災により、全国各地でダムの設備上の瑕疵があっても水力発電をし続けなくてはならない緊急状況下で、ダム周辺の住む住民の安全を確保するために定められており、財政逼迫という理由から政府利益のためともいえるし、国家として国民の生命を守る義務を果たすためでもあり、目的がにやむにやまれぬ政府利益のためであるとはいえそうである。しかし、手段において、住民を指定区域に居住させないというのみ定め、居住の移転に伴う費用などの保障は行なっていない。それどころか、居住禁止命令に従わなかった者には罰則が与えられる。このような手段は、居住移転については、政府が各々の費用を補償するか、もしくは仮設住宅を設けるなどのより制限的でない他に選びうる手により「正当な補償」を行えたにもかかわらず、これを行なっていない。

 したがって、手段が必要最小限度のものとはいえない。

3 以上より、本法は財産権の内容を「公共の福祉に適合するやう」定めておらず、29条2項に反し違憲であり、これに基づきなされた本件居住禁止処分も違憲違法であ  

第2 問2

1 国の反論について、国としては、B村の住民にとって、Bの居住が禁止されることは「財産権」の制約に他ならないが、本法は国家の緊急状況下で国家の存続のために水力発電による電力の供給を特定指定ダムに担わせざるをえないこと。これに加えて、指定ダムのリスク管理のため、万が一に備えて、周辺地域の居住を禁止しており、これは周辺住民の生命・身体を保護するために行われている。

 このようにひとえに財産権といっても、その内容は多種多様であり財産権に対する規制を必要とする社会的理由ないし目的も、社会生活における安全保障や秩序の維持を図るものまで多岐にわたる。

 そこで、財産権に対する規制が「公共の福祉に適合する」か否かは、規制の目的必要性、内容、その規制によって制約される財産権の性質や制限の程度などを比較衡量して判断すべきである。

 本法は国家の緊急状況下で国家の存続のために水力発電による電力の供給を特定指定ダムに担わせざるをえないこと。これに加えて、指定ダムのリスク管理のため、万が一に備えて、周辺地域の居住を禁止しており、これは周辺住民の生命・身体を保護するために行われている。この規制によって制約される財産権の種類としては、B村住民の生活の基礎である。そして制限の程度は国家の緊急状況下でやむをえないものであり、これはB村のみならず、全国各地で同様の状況が発生している。 

 このような事情を比較衡量すると、規制の目的、必要性が、規制によって制約される財産権に優先されるものといえる。

 したがって、本法は合憲である。

2 私見

 被告の審査基準は「公共の福祉に適合する」かを比較衡量により判断しているが、このような審査基準は結論いかようにもすることができ妥当でない。 

 そもそも、財産権は不可侵である(29条1項)。仮に制約するにしても公共の福祉に適合するようにしなければならない。

 B村の住民は国家の政策により、自らの意思にかかわらず、その私有財産を「公共のために用ひ」らされている。このような状況下では「正当な補償」は必須であり、憲法が少数者の権利を守るためのものであることに鑑みれば、公共の福祉に適合する」かは少数者の権利・利益を守るため厳格に審査しなければならない。とはいえ、「公共の福祉」に資する要請も重要であるから、制約目的が公共の福祉に合致するものであっても、その手段が目的達成のため必要かつ合理的なものであるといえない限り合憲であるとはいえないと解すべきである。

 本法の制約目的は、国家の存続・維持という重要な目的があり、これは公共の福祉に合致するものであるが、制約手段においてB村に居住禁止でありかつB村から移住するにあたり、国家からなんらの支援を受けることができないのは、あまりにもB村民にかかる負担の程度が大きい。第1で主張したように、また東日本大震災で政府が行なったような仮設住宅を設けるなどの手段をすることは可能であるといえるから、B村の居住禁止に伴い 

 損失補償を行わないとする本法は、制約手段において必要かつ合理的なものとはいえず、29条2項に反し、違憲であり、これによる本件居住禁止処分は違憲違法である。

 

 以上(2340字)

 

※久しぶりの更新になってしまいました。ローに入って自分の処理能力のなさに幻滅してます。

※この前、期末試験が終わり、既修1年目は終わりました。もっとも進級できるかはまったくわかりません。後期の必修科目は重く、過去問より数段は難しい(出題の意図がわかりにくい)問題が出たため、まったく手応えがありません。