答案作成の節約法と法律解釈の仕方

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事例研究憲法第6問 表現の自由―国家公務員によるビラ配布事件―


設問1 (以下、条数のみは憲法
1 法令違憲の主張
(1)Yは、本件行為が人事院規則14―7第5項7号、6項13号(以下、「本件各条項」という)に該当するとして、国家公務員法110条1項19号、102条1項違反の罪で起訴されている(以下、「本件処分」という)。
 しかし、本件各条項は、Yの「表現の自由」(21条1項)を侵害するものであって、「この憲法…の条規に反する法律」として「効力を有しない」(98条1項)。よって、「被告事件が罪とならない」から、Yは「無罪」(刑事訴訟法336条)である。以下、詳述する。
(2)まず、国家公務員法102条1項は一般職の公務員に対して、「政党又は政治目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。」と規定し、この委任に基づいて人事院規則14―7が、禁止される「政治的行為」の具体的内容を定めている。そして、この禁止に違反した者に対し国家公務員法110条1項が3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する旨を規定している。
 したがって、本件各条項は、公務員の政治的活動を罰則をもって禁止するものであり、公務員であるYの政治的活動の自由(以下、「本件自由」という)を制約するものといえる。
(3)また、「表現」とは、自己の思想や意見を外部に表明する行為をいうところ、政治活動は、まさに自己の政治的思想・意見を外部に表明する行為であるから、本件自由は「表現」の自由として保障される。
(4)ここで、政治活動の自由は、言論活動によって国民が政治的意思決定に関与するという自己統治の価値が正面から妥当する場面である。また、政治活動の自由は、立憲民主政の政治過程によって不可欠の基本的人権であって、民主主義社会を基礎付ける重要な権利である。
 他方、本件各条項は、政治活動に限定して禁止する、いわゆる内容規制であるところ、このような内容規制は、思想の自由市場を歪めるおそれがある点で、重大な制約である。また、国家公務員法102条1項の規定は、刑罰法規の構成要件となっているため、罰則によって政治活動を禁止する点でも、重大な制約である。
 そこで、本件各条項の違憲性は、厳格に判断すべきである。具体的には、①目的がやむにやまれぬ政府利益のため、②手段が目的達成のため必要最小限度であることを要すると解する。
(5)本件では、本件各条項の目的は、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するために、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある政治的行為を禁止することにある。しかし、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼という目的は、極めて抽象的である。また、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼とは、公務員が政治的に中立であることの外観を保護するものであり、そのような外観の保護は、「寛容な社会」においては法益とするに値しない。したがって、このような目的はやむにやまれぬ政府利益のためとはいえない。
 仮に目的がやむにやまれぬ政府利益のためであったとしても、公務員の政治的行為が自由に放任された場合に生じる弊害は観念上の想定にすぎない。また、本件各条項が禁止する行為の範囲は広範であり、公務員の地位や具体的行為の内容等に照らして、公務員の政治的中立性を損なうおそれが認められない行為までも、規制の対象とされている。さらに、上記目的を達成するためには、規則14―7で禁止される政治的行為を行った公務員の懲戒処分の対象とすれば足り、罰則をもって禁止する必要性までは認められない。したがって、本件各条項による規制の手段は、必要最小限度であるとはいえない。
(6)よって、本件各条項は、本件自由を侵害するものであって、「この憲法…の条規に反する法律」として「効力を有しない」。
(7)以上より、「被告事件が罪とならない」から、Yは無罪である。
2 処分違憲の主張
(1)仮に本件各条項が適法だとしても、本件行為は本件各条項の構成要件に該当するものではなく、「被告事件についての犯罪の証明がない」(刑事訴訟法336条)から、Yは「無罪」である。以下、詳述する。
(2)本件自由に対する制約があること、本件自由は「表現の自由」として保障されるところ、政治活動の自由は自己統治の価値が正面から妥当するところ、政治活動の自由は立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって、民主主義社会を基礎付ける重要な権利であること、本件各条項は重大な制約であることは上記の通りである。
 そこで、公務員に対する政治的行為の禁止は、国民としての政治活動に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきである。具体的には国家公務員法102条1項の「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し、規則14―7第5項3号、第6項13号も、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものを禁止の対象となる政治的行為として規定したものであると解すべきである。
(3)これを本件についてみると、非管理職である公務員で、その職務が機械的労務の提供にとどまるものが、勤務時間外に、国の施設を利用することなく、かつ職務を利用し、若しくはその構成を害する意図なしで行った行為であるから、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるとはいえない。
よって、本件行為は本件各条項の構成要件に該当しない。
(4)以上より、「被告事件についての犯罪の証明がない」から、Yは「無罪」である。
第2 設問2
1 検察官の主張
法令違憲について
(1)国民の信託による国政国民全体への奉仕を旨として行わなければならないことは当然の理であるが、、「すべて公務員は、全体奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」とする15条2項の規定からも公務が国民の一部に対する奉仕としてではなく、その全体に対する奉仕として運営されるべきである。また、本件各条項は、間接付随的制約にすぎないから、その制約の程度は弱い。
 したがって、①目的が正当で、②手段との間に合理的関連性が認められれば足りると解するべきである。
(2)本件では、上記のとおり本件各条項の目的は、行政の中立的運営とそれに対する国民の信頼を確保するために、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある政治的行為を禁止することにあり、正当と認められる。また、公務員の政治的中立性を損なうおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは合理的関連性が認められる。
 したがって、本件各条項は本件自由を侵害するものではない。
処分違憲について
(1)公務が国民の全体に対する奉仕として運営されるべきものであること、本件各条項は、間接付随的制約にすぎないことは上記のとおりである。そこで、国家公務員法102条1項の「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的に認められるものを指し、規則14―7第5項3号、6項13号も、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが観念的に認められれるものを禁止の対象となる政治的行為として規定したものであると解するべきである。
(2)本件行為は、Yが「虹」を支持する目的を持って、「虹」の事務所周辺の住宅街において、約1時間、「虹」のビラ約50枚を各住宅の郵便受けに投函しているから、このような政治的意思決定に関与するよう呼びかける行為は、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが観念的に認められる。
 よって、本件行為は本件各条項の構成要件に該当する。
(3)以上より、「被告自演について犯罪の証明があつた」(刑事訴訟法333条1項)と認められるから、Yは有罪である。
2 私見
法令違憲について
(1)まず、本件各条項が本件自由を侵害するか否かをどのように考えるべきかが問題となる。たしかに、政治活動の自由は自己統治の価値が正面から妥当し、政治活動の自由は立憲民主政の政治過程に不可欠な基本的人権であって民主主義社会を基礎付ける重要な権利である。また、国家公務員法102条1項の規定は、刑罰法規の構成要件となっているため、罰則によって政治活動を禁止する点で、重大な制約となっている。
 しかし、「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」とする15条2項の規定からも、公務は国民の全体に対する奉仕として運営されるべきものであり、本件各条項は、表明される意見がどのようなものであるかを問わず、一律に特定の行動を規制するのであるから、検閲的な性質を帯びるものではなく、表現の自由に対して及ぼす抑制の効果は間接付随的なものであり、その程度は低い。
 そこで、本件各条項が本件自由を侵害するか否かは、①禁止の目的、②この目的と禁止される政治的行為との関連性、③政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することによって失われる利益との均衡の3点から検討することが必要である。
(2)ア、①について、もし公務員の政治的行為のすべてが自由に放任されるときは、自ずから公務員の政治的中立性が損なわれ、職務の遂行ひいてはその所属する行政機関の公務の運営に党派的偏向を招くおそれがあり、行政の中立的運営に対する国民の信頼が失われることは免れ得ない。
 したがって、このような弊害を防止し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼の確保のため、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある政治的行為を禁止することは、まさしく憲法の要請に応え、公務員を含む国民全体の共同利益を擁護するための措置にほかならないのであって、その目的は正当なものというべきである。
イ、②について、このような弊害の防止のため、公務員の政治的中立性を損なうおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは、禁止目的との間に合理的関連性があるものと認められるのであって、たとえその禁止が公務員の職種・職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等を区別することなく、あるいは行政の中立的運営を直接、具体的に損なう行為のみに限定されていないとしても、合理的関連性が失われるものではない。
 特に、規則14―7第5項3号、6項13号の政治的行為は、特的の政党を支持する政治的目的を有する文書を掲示し又は配布する行為であって、政治的偏向の強い行動類型に属するものにほかならず、政治的行為の中でも、公務員の政治的中立性の維持を損なうおそれが強いと認められるものであり、政治的行為の禁止目的との間に合理的な関連性を持つものである。
ウ、③について、公務員の政治的中立性の維持を損なうおそれのある行動類型に属する政治的行為を、これに内包されると意思表明そのものの制約を狙いとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止を狙いとして禁止するときは、同時にそれにより意思表明の自由が制約されることになるが、それは、単に行動の禁止に伴う限度での間接付随的制約に過ぎず、かつ、国家公務員法102条1項及び規則の定める行動類型以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではなく、他面、禁止により得られる利益は公務員の政治的中立性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという国民全体の共同利益なのであるから、得られる利益は、失われる利益に比してさらに重要なものというべきであり、その禁止は利益の均衡を失するものではない。
エ、したがって、本件各条項は、本件自由を侵害するものではない
(3)よって、本件各条項は「この憲法…の条規に反する法律」ではなく、有効である。
処分違憲について
(1)次に、国家公務員法102条1項の「政治的行為」の意義、及び規則14―7第5項3号、6項13号により禁止される政治的行為の対象が問題となる。
 公務が国民の全体に対する奉仕として運営されるべきものであること、本件各条項は、間接付随的な制約であることは上記のとおりである。しかし、政治活動の自由は自己統治の価値が正面から妥当する場面であること、政治活動の自由は立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって民主主義を基礎付ける重要な権利であること、国家公務員法102条1項の規定は刑罰法規の構成要件となっていることに鑑みれば、公務員に対する政治的行為の禁止は、国民として政治活動に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきである。
 具体的には、国家公務員法102条1項の「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し、規則14―7第5項3号、6校13号も、公務員の職務の遂行の政治的中立を損なうおそれが実質的に認められるものを禁止の対象となる政治的行為として規定したものであると解するべきである。そして、こうしたおそれが認められるか否かは、当該公務員の地位、その職務の内容や権限等、当該公務員がした行為の性質、態様、目的、内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である。
(2)本件について、本件行為は厚生労働省健康局がん対策・健康増進課に勤務する公務員が、「虹」を支持する目的を持って、「虹」の事務所周辺の住宅街において、約1時間、「虹」のビラ約50枚を各住宅の郵便受けに投函しているもので、これは公務員により組織される団体としての性格を有するものでなく、また勤務時間外の行為ではあり、その行為の態様からみても、ビラを私服で住民と会話を交わさずに投函するという行為は、特定の政治的思想を一般人に容易に認識され得るようなものではなく、公務員の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるとはいえない。
 よって、本件行為は本件各条項の構成要件に該当しない。
(3)以上より、「被告事件について犯罪の証明があつた」と認められないから、Yは無罪である。

 

 以上

 

※約6000字に及ぶ超大作…笑 みんな大好き表現の自由は、余計なことを欠いてしまいがちになります。本番の試験ではあまり長々と論証を書く必要はなく、問題文の事実から使う論証を選択していくとよきですね。