答案作成の節約法と法律解釈の仕方

現在は憲法の答案例を主にあげているブログです。

事例研究憲法 第8問 職業の自由―公衆浴場開設不許可事件―

 

第1 設問1(以下、憲法は条数のみ)

1 X代理人として公衆浴場開設について許可制を定めた法2条、本件不許可処分の根拠法規である本件条例2条(以下、「本件規定」という。)Xの「職業選択の自由」(22条1項)侵害するものであり、「この憲法…の条規に反する法律」として「効力を有しない」(98条1項)。したがって、無効な条例に基づきなされた本件不許可処分は違憲違法であると主張する。以下、詳述する。

2 まず、職業はひとりその選択、すなわち職業の開始、継続、廃止において自由であるばかりでなく、選択した職業の遂行自体、すなわちその職業活動の内容、態様においても原則として自由であることが要請されているのであり、22条1項は、狭義における「職業選択の自由」のみならず、職業活動の自由保障をも包含している。そして、普通公衆浴場として営業する自由(以下、「本件自由」という。)も狭義における職業選択の自由」として保障される。

3 職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己の持つ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有する。また、本件規定は公衆浴場の開設を許可にかからしめているところ、一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における「職業選択の自由」そのものを制約するもので、職業自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する。さらに、それが社会政策ないし経済政策上の積極的目的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対する、より緩やかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては上記の目的を十分に達成することができないと認められることを要する。

4 本件各規定は、公衆浴場の乱設を防ぎ、公衆衛生の維持を図るところにあるから国民の生命身体の危険の防止という消極的・警察的目的のための規制措置であるといえる。

 また、公衆浴場の開設等について地域的制限が存在しない場合、公衆浴場が偏在し、これに伴い一部地域において業者間の過当競争が生じる可能性があり、このような過当競争の結果として一部業者の経営が不安定となるおそれがあるとすることは、単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたい。

 したがって、本件各規定は、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であるとはいえない。 

5 よって、本件各規定は、Xの「職業選択の自由を侵害するものであって、「この憲法…の条規に反する法律」として「その効力を有しない」。以上より、本件不許可処分は違憲違法である。

第2 設問2

被告の反論

(1)職業は本質的に社会的な、しかも主として経済的な活動であって、その性質上社会的相互関連性が大きいものであるから、職業の自由は、それ以外憲法の保障の自由、殊にいわゆる精神的自由権に比較して、公権力による規制の要請が強い。

 また、このように、職業はそれ自身のうちになんらかの制約の必要性が内在的に存在す社会活動であるが、その種類、性質、内容、社会的意義及び影響が極めて多種多様であるため、その規制を要求する社会的理由ないし目的も千差万別で、その重要性も区々にわたる。そして、これに対応して、現実に職業の自由に対して加えられる制限も、それぞれの事情に応じて各種各様の形をとることとなる。それ故に、これらの規制措置が22条1項にいう「公共の福祉」のために要求されるものとして是認されるかどうかは、これを一律に論ずることができず、具体的なもの規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならないが、この場合、上記のような検討と考量をするのは第一次的には立法府の権限と責務である。さらに、本件各規定の目的は、経営主体が小さいことが多い公衆浴場の経営の保護という社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置である。

 くわえて、公衆浴場の開設距離制限は、開設場所の制限にとどまり、開業そのものが許されないこととなるものではないから、強力な制限とはいえない。

 したがって、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理出ることが明白である場合に限って、これを違憲として、その効力を否定することができると解すべきである。

(2)これを本件についてみると、公衆浴場の開設等について地域的制限が存在しない場合、公衆浴場が偏在し、これに伴い一部地域において業者間の過当競争が生じる可能性があり、このような過当競争の結果として一部業者の経営が不安定となるおそれがあるから、本件各規定は合理性がある。したがって、本件各規定が著しく不合理であることが明白であるとはいえない。

(3)よって、本件各規定は、Xの「職業選択の自由を侵害するものではなく、有効である。以上より、本件不許可処分は適法である。

2 私見

(1)本件各規定が、本件自由を侵害するか。

 本件各規定は、国民の生命及び健康に対する危険の防止という消極的警察的目的のための規制措置か、社会政策ないしは経済政策上の積極目的のための措置かは、公衆浴場の開設の距離制限は、消極的目的によるものではなく、積極目的によるものと考える。

 なぜなら、現代において、各家庭に浴槽付きのお風呂場がある家庭が普及してきており、公衆浴場が果たしてきた役割を各家庭が担う場面が多くなっているそうすると、公衆浴場を利用する客は、家庭にお風呂場がないであり、そのような者がどの程度存在するかは定かではないが、多数いるとも思えない。そして、今日ではライフラインの整備、技術の向上により、たとえ、公衆浴場が乱設されたとしても、それによって、公衆浴場の衛生上の不備が起こることは考えづらい。そうすると、このような開設距離制限は、既存の公衆浴場の経営を考慮して定められたものと考えることができる。

 したがって、積極目的規制である。

(2)次に本件各規定が強力な制限といえるか。

 たしかに、公衆浴場の開設等の許可における距離制限は、開設場所の制限にとどまり、開業そのものが許されないこととなるものではない。しかし、公衆浴場の開設を自己の職業として選択し、これを開業するにあたって、経営上の採算のほか、諸般の生活上の条件を考慮し、自己の希望する開業場所を選択するのが通常であり、特定場所における開業の不能は開業そのものの断念にも繋がりうるものであるから、上記のような開業場所の地域的制限は、実質的には職業選択の自由に対する大きな制約効果を有する。 

 したがって、本件各規定は強力な制限である。

(3)そこで、本件各規定の合憲性を肯定し得るためには、原則として、本件各規定によって得られる公共の利益と、これによって害される個人の利益とを比較衡量して決すべきであり、これにあたっては、当該事案の具体的事情を総合考慮する。

(4)これを本件についてみると、たしかに、公衆浴場の開設等について地域的制限が存在しない場合、公衆浴場が偏在し、これに伴い一部地域において業者間の過当競争が生じる可能性があり、このような過当競争の結果として一部業者の経営が不安定となるおそれがある。しかし、このようなおそれはやはり観念上のものにすぎず、具体的な危険があるとはいえない。ましてや、今日のように技術の向上や、公衆浴場利用者の減少に鑑みれば、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたい。

 しかし、公衆浴場利用者の減少ということを考えれば、公衆浴場が乱設された場合、既存の公衆浴場と新設の公衆浴場が共倒れする可能性は十分考えられる。

 そうすると、やはり本件各規定が真に保護すべきであると考えているのは、既存の公衆浴場の権益である。

 そして、「サウナ大塚」の営業実態は黙認されていたのであるから、実質的にY県によって許可を得ていたのと同視することができる

 したがって、「サウナ大塚」は新たに参入してきた公衆浴場ではなく、既存の公衆浴場が正式な手続きを踏み、許可を求めているにすぎないのであるから、「サウナ大塚」は既存の公衆浴場といえる。

(5)以上より、Yは保護されるべきであり、本件各規定は合憲だとしても、本件各規定の構成要件を満たさずなされた本件不許可処分は違憲法である。

 

 

            以上

【追記(2020.2.14)】

1 経済的自由権の代表は、職業選択の自由である。そして、その判例としてもっとも知られているのは、薬事法判決(最大判昭和50.4.30民集29巻4号572頁)であろう。ここで、少し踏み込んだ憲法訴訟論(主に立法事実論)を紹介したい。以下は、石川健治ほか『憲法訴訟の十字路-実務と学知のあいだー』(弘文堂、2019年)12頁以下の巽論文の引用である。そこでは、規範的要件としての違憲性について、

「再び薬事法判決を例に出すならば、そこでは、先述のように合理性の欠如と必要性の欠如(LRAの存在)という二つの違憲性の下位要件が立てられたのち、評価根拠事実/評価障害事実が衡量された結果、当該下位要件の充足が認められている。(※1)すなわち、被告は薬局の過密が医薬品の乱売をもたらすこと、それが医薬品の供給の不適正化につながること、それを防ぐために適正配置条項による薬局の過密の防止が実効性を有することという、適正配置規制の合理性および必要性を基礎付ける諸事実(合理性・必要性の欠如の評価障害事実)を主張しているが、最高裁は、薬事法が医薬品の製造、貯蔵、販売の全過程を通じてその品質の保障および保全上の種々の厳重な規制を設けていることや、薬剤師法もまた調剤について厳しい遵守規定を定めていること、これらの規制違反に対しては罰則および許可または免許の取消し等の制裁が設けられているほか、不良医薬品の廃棄命令、施設の構造設備の改善命令、薬剤師の増員命令、管理者変更命令等の行政上の是正措置が定められ、さらに行政機関の立入検査権による強制調査も認められ、このような行政上の検査機構としての薬事監視員が設けられていること、すなわち適正配置規制の合理性および必要性を否定する諸事実(合理性・必要性の評価根拠事実)を指摘し、結論的に適正配置条項の合理性および必要性を否定している。」

 このように最高裁は、適正配置条項の合理性および必要性を否定するために様々な事情を積み上げている。これは、LRAの存在を認めるためには、代替手段によって、同等の目的を達成することができると言うためには、これだけの事情が必要であるという裏返しでもあるのであるから、答案を書くにあたってこのような事情は大きく役に立つ。

2 そして、巽准教授は同書24頁以下で、司法審査の「厳格さ」の複層性についてこう述べている。

「従来の公法学では、司法審査の「厳格さ」の問題として、ともすればこの両者(カフカ注:規範的要件の具体化と証明責任の配分)が混然一体に議論されてきたが、この「厳格さ」は、証明責任の配分による審査密度の差異化と、規範的要件の具体化による審査手法の差異化という、質的に異なる二つの観点から複合的に決定されるものと理解されるべき」とされている。

 これは憲法の答案を書くにあたって特に気にしたことはない人が多いと思われるが、例として、表現の自由において、規制立法についての違憲審査基準が厳格化されるのは、内容中立規制であればオブライエン・テスト、内容規制であれば真にやむを得ない目的と手段の必要最小限度性の審査という審査手法の差異を設け、その上で立証責任が政府に課されるもので、規範的要件の具体化と証明責任の配分は明確に区別されるべきであるというものである。

 もっとも、両者の区別が付けづらいものがあり、この点については、今後の憲法業界に意識的に議論をすることを求めている。

 話が逸れたが、経済的自由権については、消極目的規制について、積極目的規制よりも審査が「厳格化」されるのは、手段の合理性の論証責任ないし論証度が軽減されるからではなく、手段の必要性という別の規範的要件が定立されるからだとみるべきだとしている。

3 なぜ、いきなり憲法訴訟論に言及したかというと、『憲法訴訟の十字路-実務と学知のあいだー』が学術的好奇心を掻き立てる書であり、なにかしら引用してみようと思ったからである。私が同書をどのくらいのスピードで読み進められるかはわからないが、また折に触れて関連する論点のところで同書を引用してみようと思う。

※1 ここで、規範的要件としての違憲性とはなにか説明する必要がある。巽准教授は、同書10頁にて、「規範的要件としての違憲性を構成する各種の下位要件(目的の正当性、手段の合理性、必要性の欠如など)と、各種下位要件の充足の有無を判断するための評価根拠事実/評価障害事実を設定するのが、違憲審査基準の役割となる。」としている。これは、要は比較衡量・利益衡量(※2)に用いる事実を原告に有利な事実と、被告に有利な事実とに峻別するという、いわば憲法の答案を書くにあたって、受験生がやっていることと何ら変わらないと思われる。

※2 比較衡量は実に答案制作上、多くの事実が拾えるため、困ったら比較衡量という感じがあるが、同書106頁以下の松本論文において、比較衡量批判が取り上げられているので、時間がある人はぜひ読んでみて欲しい。