答案作成の節約法と法律解釈の仕方

現在は憲法の答案例を主にあげているブログです。

事例研究憲法 第9問 財産権の保障と損失補償の要否―自然公園内の新築不許可事件―

 しばらく更新できていなかったので、本日は2通あげておこうと思います。

 


第1 設問1(以下、憲法は条数のみ)
1 Xは、本法20条3項1号に基づき新築許可申請を行ったが、本施行規則により、不許可処分(以下、「本件処分」という。)をされている。そこで、本施行規則は、Xの「財産権」(29条1項)を侵害し、「この憲法…の条規に反する」として「効力を有しない」(98条1項)のであり、本件処分は違憲違法であると主張する。
2 まず、本施行規則は、Xの本件土地Aに家を新築する自由(以下、「本件自由」という。)を制約している。
 また、「財産権の内容は…法律でこれを定める」(29条2項)ところ、法4条が「財産権の尊重及び他の公益との調整」を定めており、本件自由も「財産権」として保障される。
3 ここで、29条は私有財産制度を保障しているのみではなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障するものであるところ、財産は個人の生活に不可欠であり、個人の自由で独立な人格の存在を可能にする経済的基盤である。
 そこで、本施行規則の合憲性を判断するにあたっては、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する。さらに、それが自由な経済活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、よりゆるやかな制限によっては、上記の目的を十分に達成することができないと認められることを要するところ、本施行規則は、優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、生物の多様性の確保に寄与することを目的としているから、これは消極的、警察的措置であるとはいえない。
4 本施行規則が、第1種特別地域では、新築・改築・増築許可は、学術研究等わずかな例外を除いて受けられない旨を定めているが、優れた風景地を保護し、生物の多様性の確保に寄与するために学術研究等のみを許可の対象とするのは、あまりにも厳格にすぎて、合理性を欠く。
5 したがって、本施行規則は、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であるとはいえないから、Xの「財産権」を侵害し、「この憲法…の条規に反する」として「効力を有しない」(98条1項)であり、本件処分は違憲違法である。
第2 設問2
国の反論
1 本施行規則は、第一種特別地域の保護を目的としているが、そもそもこのような土地は国の所有であるのだから、誰に許可を与えるかは国の自由であり、Xの「財産権」ではない。したがって、Xの本件自由は「財産権」として保障されない。
2 仮に、本件自由が「財産権」として保障されるとしても、「財産権」はそれ自体に内在する制約があるほか、その種類、性質、内容、社会的意義及び影響が極めて多種多様であるため、その規制を要求する社会的理由ないし目的も千差万別で、その重要性も区々にわたる。そしてこれに対応して、現実に「財産権」に対して加えられる制限も、それぞれの事情に応じて各種各様の形をとることとなる。それ故に、これらの規制措置が29条2項にいう「公共の福祉」のために要求されるものとして是認されるかどうかは、これを一律に論ずることができず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される財産権の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量したうえで慎重に決せられるべきであるが、この場合、上記のような検討と考量をするのは、第一次的に立法府の権限と責務である。さらには、本施行規則は、優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、生物の多様性の確保に寄与することを目的としており、社会政策上の積極目的のための措置である。
 したがって、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることが明白である場合に限って、これを違憲とし、その効力を否定することができる解する。
3 本件では、第一種特別地域は、特別保護地区に準ずる景観を有し、風致の維持の必要性が最も高い地域であることから、これを保護するためには厳格な許可要件を必要とすることで目的を達成できる。したがって、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることが明白であるとはいえない。
よって、本施行規則は、Xの「財産権」を侵害するものではなく、有効である。
4 以上より、Xの請求は棄却されるべきである。
私見
1 まず、本件自由が「財産権」として保障されるか。
 本件土地Aは約1万㎡の土地であり、広大な土地である。そして、Xとしては、この広大な土地に老後の住まいを立てる目的で本件土地Aを1億円で購入している。そうすると、このような場合に、「財産権」を認めないとなると、Xは居住する家を失い、路頭に迷うことになりかねない。
 したがって、本件自由は「財産権」として保障される。
2 次に本施行規則が本件自由を制約するか。
(1)財産権は、それ自体に内在する制約があるほか、立法府が社会全体の利益を図るために加える規制により制約を受けるものであるが、この規制は、財産権の種類、性質等が多種多様であり、また、財産権に対し規制を要求する社会的理由ないし目的も、社会公共の便宜の促進、経済的劣位に立つ者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的なものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的なものに至るまで多岐にわたるため、種々様々でありうる。したがって、財産権に対して加えられる規制が29条2項にいう公共の福祉に適合するよう、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して決すべきである。
 しかし、裁判所としては、立法府がした比較考量に基づく判断を尊重すべきであるから、立法の規制目的が上記のような社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであっても規制手段が上記目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであって、そのための立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、その効力を否定することができる。
(2)本施行規則の目的は法1条において、優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ること、国民の保護、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与することを目的としている。これは、人間の休養と生物多様性の精神のバランスを図るための規定であるから、公共の福祉に合致しないことが明らかとはいえない。
 他方、本施行規則11条は、既存の建物の改築、建替え、災害等により滅失した建築物の復旧のための新築を適用除外としているが、本件地域に土地のみを所有し、建築物を所有していない者に対する保護が一切規定されていない。
 本件地域に土地のみを所有している者でも、風景地の美観を損なわず、生物の多様性を維持しつつ、建築物を新築することは可能であるから、このように本件地域に土地のみを所有し、建築物を所有していない者に対する保護が一切規定されていない。のは合理的関連性を有しない。
(3)したがって、本施行規則はXの本件自由を侵害する。

 

以上

 

 

※財産権の答案は書きにくい。というのが正直な感想です。ただ、考えてみれば財産権も条文に文言がありますし、要は本件で問題となる権利が「財産権」に含まれるか、それがどういった制約を受けているのか、と考えていけば何も迷う必要はない(のかもしれませ)んです。

 

余談ですが、相変わらずジレケン憲法は重いですね・・・。これを書いていた前期は本当に時間がありませんでした笑

まあ憲法は好きなんでいいんですがね。

                                                                   カフカ